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助言はするが、決めるのは学生。運営責任者の4年と「自律性支援」の研究から考える関わり方

「社長はアドバイスはくれるけれども、決断は自分でしていく」。キミタビの運営責任者げんげんさんが、手探りの4年を振り返った取材と、学習者の自発性を尊重する指導(自律性支援)の研究から、海外研修で学生に決断を任せるときの関わり方を表と問いにまとめました。

 文:株式会社IMPACT ASIA

海外研修の現地で、学生のチームが行き詰まる。どこに話を聞きに行くか、何を先にやるか、決められない。

引率する側には、答えが見えていることがあります。言ってしまえば、その日の予定は前に進みます。言わずに待てば、時間が過ぎ、学生の顔は曇っていきます。

この分かれ道について、考える手がかりになる話を聞きました。話してくれたのは、カンボジアで行う短期の海外プログラム「キミタビ」の運営責任者、げんげんさんです。ただし今回の話は、学生への指導の話ではありません。げんげんさん自身が4年前、答えを教えてもらえない立場に置かれたときの話です。

中身の決まっていない事業に、自分から手を挙げた

4年前、げんげんさんは英語トレーナーとして働いていました。会社でカンボジアの新しい事業を立ち上げる話が出て、自分から手を挙げます。

その当時、僕は英語トレーナーをしていたんですが、会社の中でカンボジアの新事業を立ち上げるという話が出て、僕はカンボジアに興味を持って、ぜひ行きたいと立候補したのが、一番最初のカンボジアのきっかけです。 げんげんさん

行く時点で、何をするかは決まっていませんでした。

その当時は英語に関すること、何をするかっていうのは全然決まっていなくて、いろんな人にカンボジアの話を聞いたりとか、いろんな仕事の話を聞いたりとかしながら、どうやったらこのカンボジアの新規事業がうまくいくんだろうっていうのを、ゼロから(中略)手探りで全部やってきたみたいなところですかね。 げんげんさん

当時の自分を、げんげんさんは「突き落とされるライオンの子供の気分だった」と表しています。

「アドバイスはくれるけれども、決断は自分で」

突き落とされた、という言葉のあとに、げんげんさんはすぐ言い直しています。

落とされたというか、ベンチャーならではなんですけど、自分で答えを見つけていかなきゃいけないっていう。社長はアドバイスはくれるけれども、決断は自分でしていくっていう、その決断ですね。 げんげんさん

助言はある。決定は本人に残る。これは、研修で学生のチームに課題を任せるときの構図とよく似ています。

げんげんさんにとって、その決断は簡単ではありませんでした。

今までの中で自分の人生の決断はしてきたんですけど、ビジネスにおいての決断はやったことがなかったので、しかも新しいやったことのない仕事がどんどん舞い込んできたので、どう決断したらいいかも分からない、どう考えたらいいかも分からないっていうところですかね。 げんげんさん

「どう考えたらいいかも分からない」。現地で決められずにいる学生も、おそらく同じところにいます。決める意欲が足りないのではなく、その種類の決断をした経験がない。私たちは、この区別が関わり方を考える出発点になると見ています。

いちばん苦しかった時期も聞きました。答えは、最初のキミタビが始まる前でした。

あの時は、何をどの順番でやったらいいかも分からないし、すべての仕事が初めてで分からないことだらけすぎて、あの頃はやさぐれてたと思います。 げんげんさん

始まってからは、仲間が増え、参加者との交流が生まれ、「自分のやりたいことみたいなところがすごく目に見えるようになって」、そこまで大変だったという思いはない、と話しています。

支えたのは、言葉より「空気感」

決断を任された人は、何に支えられるのか。げんげんさんの答えは、具体的な助言の中身ではありませんでした。

僕は場面場面でその人が言う言葉は、実はそこまで覚えていることができなくて、でも、なんだろうな、その空気感ですかね。僕がこの苦しい中でも諦めずにサポートしてくれるっていうところが、もうなんか、やるしかないなと思えたし、あとは周りの友達ですね。 げんげんさん

もう一つは、同じ立場の仲間です。同じような悩みや境遇の友達がいて、「その人たちと切磋琢磨しながら乗り越えてきた記憶があります」と話しています。

まとめると、げんげんさんの環境には3つの要素がありました。

  1. 決定は本人に任されている
  2. 助言はもらえ、見放されないという感覚がある
  3. 同じ立場で迷う仲間がいる

どれか一つではなく、3つがそろっていた点に、私たちは注目しています。決定を任せるだけなら、放任と区別がつきません。

研究では:自律性支援と統制

教育心理学には、この構図を扱う概念があります。自律性支援(autonomy support)です。

岡田(2020)は、自律性支援を「学習者の視点に立ち,彼らの自発性を尊重しようとする指導」とし、その対極に「教授者の意図通りに考えたり,行動するように強いる統制(control)」を置いています(いずれも Reeve, 2016 による)。同じ論文で使われた質問項目の例が、具体的な姿を思い浮かべる助けになります。

  • 自律性支援の例:「授業中に,自分で決めたり,選んだりする機会を児童や生徒にもたせる」
  • 統制の例:「授業中に,“〜しなさい” という言い方で,指示をはっきりと伝える」

効果について、岡田(2020)は先行研究のメタ分析(岡田, 2018)をもとに、次のように整理しています。

  • 教師の自律性支援は、内発的動機づけやエンゲージメントなどの動機づけとは中程度の正の関連、学業成績とは弱い正の関連がある
  • 自律性支援と動機づけの関連は、学校段階が低い方が強い

ここから言えることと、言えないことを分けておきます。

言えること:決める機会を学習者に渡す関わりは、少なくとも学校の授業の文脈では、学ぶ意欲との関連が示されている。

言えないこと:海外研修で学生に決断を任せれば意欲が上がる、とまでは言えません。授業と研修では、決める内容も、決めるまでの時間も、相手にする人も違います。上の整理の中心は児童・生徒の授業で、大学生や高校生では関連が弱まる可能性もあります。岡田(2020)自身の調査も、教員養成課程の学生が自律性支援の効果をどう認識しているかを調べたもので、算数・数学の授業を想定した回答でした。論文も、知見の一般化には慎重であるべきだと書いています。

もう一つ、げんげんさんの話と研究を重ねるときの注意があります。げんげんさんの体験は、職場で上司から任された話です。学生と教員の関係ではありません。私たちは、両者に共通する構図(決定は本人、助言と見守りは周り)があると見ていますが、同じものとして扱ってはいません。

決断を任せる場面の関わり方

以上をふまえ、研修の現地で学生に決断を任せるときの関わり方を、げんげんさんの話の3要素をもとに表にしました。行は3要素のうち2つ目を「助言」と「見放さない感覚」に分け、最後に本人の言葉から作った1行を足しています。左の列は避けたい関わり(統制に寄ったものと、放任に寄ったものの両方)、右の列は自律性支援に寄った関わりの例です。効果を測った手順ではなく、考えるための整理です。

要素 避けたい関わりの例 自律性支援に寄った関わりの例
決定を本人に残す 「次はこの人に話を聞きに行きなさい」 「話を聞きに行く先の候補を3つ出して、チームで1つ選んでください」
助言を渡す 正解の段取りを先に示す 「迷っている点を1つ言ってくれたら、考える材料を出します」
見放さない感覚 黙って離れる(放任)/時間切れで引き取る(統制) 決めるのは学生だと伝えたうえで、決まるまで同席すると先に伝える
仲間と迷う 代表者だけと話す チームの中で、迷っている点を言葉にする時間を先に取る
経験のない決断 「なぜ決められないのか」と問う 「これは初めての種類の決断だ」と認め、決め方を1つ例で見せる

最後の行は、げんげんさんの「ビジネスにおいての決断はやったことがなかった」から作りました。決められない理由が意欲ではなく経験の不足なら、必要なのは励ましより、決め方の手本です。

事前指導で学生に渡す3つの問い

げんげんさんがいちばん苦しかったのは、始まる前でした。私たちは、学生にとっても出発前の「何をするか分からない」時期は重くなりやすいと見ています。事前指導の最後に、次の3つを書いてもらうことを提案します。

  1. 現地で、自分で決めることになりそうな場面はどこか。1つ挙げる
  2. 決められなくなったら、誰に、どう声をかけるか
  3. 同じように迷いそうな仲間は誰か。その人と何を話しておくか

1は決定が本人に残ることの確認、2は助言と見守りの経路、3は仲間の確保です。どれも、げんげんさんの話の3要素に対応しています。

帰国後のことにも触れておきます。キャリアの偶発性を扱う理論を整理した吉川(2023)は、本人の好奇心を明確にして行動を促したあと、それが学びに結びつくかどうかは確率の問題になるため、継続的にフォローすることを求めています。げんげんさんも、参加した学生が「キミタビが終わった後も連絡をくれたりとか、会いましょうよって言ってくれたり」することを、続けている理由に挙げました。私たちはこれを、決断を任せた経験についても、帰国後に連絡を取り合える関係を残しておくことが大事だという意味に読んでいます。

まだ分かっていないこと

今回の取材で聞けたのは、げんげんさん自身の体験です。キミタビのスタッフが、現地で学生に決断をどう任せているか、どこで助言に切り替えるかの手順は、今回は聞けていません。別の取材では、スタッフが学生の案に反対する場面について話しています(学生の案に反対するとき、何を添えるか)。

チームを大きくしていく今の段階について、げんげんさんは、思いを理解して「自分も挑戦してみたいな」と思ってくれる学生が増えることが大切だと話しました。そうでなければ、大きくしても「中身のない肉まんみたいになってしまう」と、本人は「あまりいい表現が思い浮かばないですけど」と言葉を選びながら話しています。決断を任せる関わりは、その中身をつくる部分にあたると私たちは考えています。どう測るかは、これからの課題です。

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