Insights — 設計
学生の案に反対するとき、何を添えるか。現地スタッフの実感と「賢いフィードバック」の研究
海外研修で、学生の案に異を唱える場面があります。反発のあと学生が満たされた表情になるのを見てきた、キミタビ事業責任者げんげんさんへの取材と、指摘に「高い期待」と「届くという信頼」を添える研究から、引率・事前指導で使える伝え方の型を整理しました。
文:株式会社IMPACT ASIA
学生のチームが、数日かけて練った提案を持ってくる。筋は通っているが、現地の相手の暮らしに照らすと、どこかがずれている。
ここで「いいね」と言えば、その場は丸く収まります。「それは違うと思う」と言えば、学生の顔は曇り、反発が返ってくるかもしれません。海外研修を引率したことのある先生なら、この分かれ道に何度も立ったはずです。
カンボジアのキミタビで、事業責任者として現地の運営を担ってきたげんげんさんは、スタッフが学生の意見に反対する場面があると話します。
キミタビの中で、僕らが学生さんの意見に反対するみたいな場面があります。そこで学生さんは結構やる気になってくれて、最初は反発はするんだけれども、最後にはすごく満足そうな、満たされた表情になる。 げんげんさん
反対されて、反発して、満たされた顔になる。以下では、この流れを、指摘の受け取り方を調べた研究と重ねて読み、学内の引率や事前指導で使える形に整理します。
現地スタッフが見てきた「反発のあと」
まず、げんげんさんの話で分かっていることと、分かっていないことを分けておきます。
分かっていること。反対する場面があること。学生は最初は反発すること。最後には満たされた表情になること。そして、げんげんさんにとってそれがやりがいであることです。
やりきった子たちのそういう姿が見られるので、そこがやっぱりやりがいですね。 げんげんさん
分かっていないこと。どんな場面で、どんな言葉で反対するのか。反発のあと、スタッフが何をしているのか。これらは今回の取材では聞けていません。以下の「型」は、げんげんさんの実践を書き起こしたものではなく、研究から組み立てたものです。
もう1つ、げんげんさんが挙げた時期の話があります。
だいたい1週間目の後半ぐらいに、メンバー同士で大変な思いもするんですけど、その大変さを克服して、英語とか気持ちの面とか、しっかり相手とコミュニケーションが取れた人は、目の色が変わって、やる気にあふれている、その熱意が伝わってくるのが印象的です。 げんげんさん
困難が先にあり、それを越えたところで意欲が上がる。反対の場面も同じ形をしています。反発という一段の下りを経て、やりきった顔に至る。研修の設計としては、反対や困難を取り除くより、越えられるように支えるほうが大事だと私たちは見ています。谷の時期の支え方は「海外研修のカルチャーショックと「谷」」で扱いました。
同じ指摘でも、受け取られ方は変わる:Yeager ほか(2014年)
指摘が受け取られるかどうかは、中身だけでは決まりません。このことを、教室の中で無作為の実験として確かめた研究があります。
Yeager らは、米国北東部の郊外の公立中学校で、7年生(日本の中学1年生にあたる)の社会科の授業を舞台にしました(研究1、44人)。生徒は「自分のヒーロー」について5段落の作文を書き、先生はふだんどおりの、しっかりした指摘を書き込みます。「もっと具体的に」「例を挙げて」「ヒーローとアイドルはどう違う?」といったものです。
そのうえで、作文に短い手紙を添えます。手紙は2種類で、どちらが渡るかは無作為に決められ、先生もどの生徒にどちらが渡るかを知りませんでした。
| 条件 | 手紙の文面(原文を訳したもの) |
|---|---|
| 対照 | このコメントは、あなたの作文へのフィードバックとして書きました |
| 賢いフィードバック | このコメントを書いたのは、私があなたにとても高い期待を持っていて、あなたならそこに届くと知っているからです |
結果、研究で調べた手紙を受け取った生徒のほうが、書き直しを出しました。差がはっきり出たのはアフリカ系の生徒で、共変量で調整した推定では、対照の手紙で17%、賢いフィードバックの手紙で71%が書き直しを出しています。白人の生徒でも同じ向きの傾向はありましたが、統計的に意味のある差ではありませんでした(調整後62%と87%)。研究2では、書き直した作文の質も上がっています。
論文が引く先行研究では、指摘の前に褒め言葉を置くだけのやり方は、効果が見られませんでした。「高い基準」だけ、「あなたならできる」だけでも足りず、両方がそろったときに効いた、と整理されています。
この研究から言えること、言えないこと
この研究が調べたのは、人種をまたいで先生への信頼が揺らぎやすい、という米国の状況です。「批判は偏見から来ているのではないか」という疑いを、高い基準と信頼の言葉で外す、というのが研究の筋立てです。日本の大学生がカンボジアで現地スタッフから反対を受ける場面に、そのまま当てはめることはできません。
それでも、借りられる考え方はあります。指摘される側が「この人は自分を低く見ているのではないか」と感じる余地があるとき、指摘の中身をいくら磨いても届きにくい。国も言葉も違う大人に案を否定される海外研修の場面は、その余地が生まれやすい状況だ、と私たちは見ています。
指摘は「次に何をするか」まで届いているか:Hattie・Timperley(2007年)
伝え方のもう1つの軸は、指摘の中身です。Hattie と Timperley は、フィードバックに関する研究を総説し、役に立つフィードバックは次の3つの問いに答えている、と整理しました。
- どこへ向かっているか(目標は何か)
- いまどこにいるか(目標に対して、どこまで来ているか)
- 次に何をするか(よりよく進むために、何をするか)
同じ論文は、フィードバックが向かう先を4つの段階に分けています。課題そのもの、課題の進め方、自分で自分を点検する力、そして本人そのもの(「よくできる学生だね」など)です。このうち本人そのものへの言葉は、課題についての情報をほとんど含まず、学びを進める力がいちばん弱い、とされています。進め方と自己点検への指摘は、深い理解につながりやすい。
反対を伝える場面に置き直すと、「それは違う」だけでは2つめの問いに半分答えたにすぎません。どこへ向かうのか、次に何をするのかが抜けていると、学生には否定だけが残ります。
反対を伝える型
2つの研究を重ねて、引率者やスタッフが学生の案に反対するときの型を組み立てました。げんげんさんの実践を写したものではなく、研究から組み立てた、試してみるための型です。
| 順番 | 伝えること | 言い方の例 | 研究との対応 |
|---|---|---|---|
| 1 | なぜ指摘するのか | 「ここまで考えてきたから、もう一段上を求めたい。あなたたちなら届くと思っている」 | 高い基準と、届くという信頼(Yeager ほか) |
| 2 | 目標の確認 | 「この案は、誰の何を良くするためのもの?」 | どこへ向かっているか(Hattie・Timperley) |
| 3 | いまの位置 | 「相手の暮らしに照らすと、ここがまだ合っていない」 | いまどこにいるか |
| 4 | 次の一手 | 「明日の聞き取りで、この1点だけ確かめてきて」 | 次に何をするか |
| 5 | 本人ではなく案と進め方に向ける | 「あなたが」ではなく「この案の」「この進め方の」で話す | 本人そのものへの言葉は効きにくい |
1つめの言葉は、本心でなければ逆効果になりかねません。研究の手紙も、先生が実際に高い基準で指摘を書き込んだうえで添えたものです。指摘の中身が浅いまま励ましの言葉だけを足しても、同じことは起きないと考えるべきです。
「最初は少なくても、一度やる」
げんげんさんの話には、研修をつくる側に向けた話も含まれていました。キミタビを始めたばかりの頃のことです。
参加者がなかなか集まらなくて、(中略)なかなか伝わらなくて、というところがすごく大変だったのを今でも覚えています。 げんげんさん
(前略)社長(渡邉)がその時に開催していいよと言ってくれたのがすごく僕の中では大きかったですね。開催できたことによって、やっぱり実績ができて、それによってキミタビをブラッシュアップできたことが、今のキミタビにつながっていると思います。 げんげんさん
学内で新しい研修を立ち上げるとき、人数が揃うまで待つか、少なくても一度実施して、その記録をもとに直していくか、という判断を迫られることがあります。げんげんさんの話は、集まらなくても一度走らせた、という例です。参加者の集め方は「海外研修の参加者が集まらないときに」にまとめています。
事前指導で学生に渡す問い
反対を受け取る力は、学生の側でも準備できます。出発前の事前指導で、次の問いを配っておくと、現地で反対されたときの足場になります。
- 反対されたとき、指摘が向いているのは「自分」か「案」か「進め方」か
- 「この案の目標は〇〇で合っていますか」と、目標を先に確かめたか
- 「目標に対して、いま何が足りないですか」と、距離を聞いたか
- 「次に直すなら、どこからですか」と、次の一手を1つに絞ったか
- 直し終えたあと、最初の案と比べて何が良くなったかを書き残したか
キミタビの学生向けの読み物「意見を反対されて悔しいときは?」では、同じ問いを学生の言葉で書いています。事前指導の資料に添えてもかまいません。
最後に
げんげんさんの話は、一人のスタッフが現地で見てきたことの記述です。反対した学生のうち何割が満たされた顔になったのか、といった測定はしていません。研究のほうも、米国の中学校という別の場で行われたものです。
それでも、2つを重ねると、引率者が明日から試せることは具体的になります。まずは「反対を伝える型」の表の1行目、なぜ指摘するのかを先に伝えることから、次の研修で試してみてください。そのとき、指摘の中身(表の2〜4行目)を省かないことが前提です。
