Insights — 安全
「大丈夫?」と聞かない体調確認。現地スタッフが学生の不調と悩みに気づく聞き方
海外研修で学生に「大丈夫?」と聞くと、多くは「大丈夫です」と返ってきます。カンボジアのキミタビでほぼ毎回スタッフを務めてきたルイさんへの取材から、体調を数字で聞く方法、声をかける相手と時機、休ませたあとの連絡の決め方を整理し、引率や学内の事前指導で使える形にまとめました。
文:株式会社IMPACT ASIA
研修の途中、昼食のあと。いつもは真っ先に意見を言う学生が、今日は黙っている。引率の先生が「大丈夫?」と聞くと、「大丈夫です」と笑って返ってくる。
海外研修に学生を送り出したことのある先生なら、この場面に覚えがあると思います。「大丈夫?」は気づかいの言葉ですが、答えはほぼ1つに決まっています。周りに迷惑をかけたくない学生ほど、「大丈夫です」と答えます。
カンボジアのキミタビで、数回を除いてほぼ毎回スタッフとして加わってきたルイさんは、この聞き方をしていません。4回に分けて話を聞くと、体調の聞き方、声をかける相手と時機、休ませたあとの連絡の決め方が、具体的な言葉で出てきました。
「1から10で言うと、いくつ?」
ルイさんの体調の聞き方は、はっきりしています。
体調の聞き方は、大丈夫かと聞くのではなく、1から10で言うと体調はいくつか、というふうに聞いています。 ルイさん
「大丈夫?」は、はい・いいえで答える閉じた問いです。「いくつ?」には、少し考えないと答えられません。そして数字には中間があります。7なら「元気だが少し疲れている」、5なら「言うほどではないが、つらい」。大丈夫と大丈夫でないのあいだにある状態が、言葉になります。
私たちは、この聞き方の利点を2つ見ています。1つは、学生が「弱音を吐く」という形を取らずに不調を伝えられること。もう1つは、前日との比較ができることです。昨日8だった学生が今日5なら、本人が「大丈夫」と思っていても、声をかける理由になります。
ただし、ここに書くのは一人のスタッフの実践です。数字の尺度がどれだけ正確に体調を表すかを、キミタビで測ったわけではありません。
「限界」のサインと、休ませたあとの手順
ルイさんが「限界」と見るのは、どんなときか。
顔色が悪かったりとか、本人が限界だとそう言います。かなり吐きそうだったりとか、目がダメだったり、料理を作るのがつらいと言うようになってくる時には、大体限界です。 ルイさん
そのとき、学生は自分の部屋に戻って休みます。ここで大事なのは、そのあとの決まりです。
私に追って連絡を入れてもらうこと。その時に、状況がどうなったかを報告してもらっています。 ルイさん
休ませた学生は、活動の場から見えなくなります。部屋に戻したあと、誰が、いつ、どう状況を知るのか。ルイさんの場合は「本人から、あとで連絡を入れる」が決まっています。引率の先生が同行する研修では、この役割を誰が持つのかを出発前に決めておくと、現地で迷いません。
ルイさんはまた、体と気持ちのつながりをこう話しています。
体が資本です。健康でないと、気持ちが後ろ向きになる。 ルイさん
普段朝ごはんを食べない学生が、現地で朝ごはんを食べるようになっていた、という変化も、ルイさんは見ていました。一方で、この話でいちばん伝えたいことを聞くと、ルイさんは「気持ちを強く持つこと」「常に前向きであること」と答えています。
体を整えることと、気持ちを強く持つこと。ルイさんはその両方を大事にしている、と私たちは読みます。学生が沈んで見えるとき、気持ちや人間関係の話を聞くのと合わせて、食事や体調の数字も確かめる。研修の現場では、この2つを切り離さないほうがよいと私たちは考えています。
声をかける相手と、時機
体調だけでなく、気持ちが沈む学生もいます。ルイさんが最初にかける言葉は「どうした?」です。誰に、いつ声をかけるのかも聞きました。
表情が暗い学生とか、意見が出てなさそうな学生とか、体調が悪い学生とか、悩んでそうな学生。一瞬一人になった時とか声をかけます。 ルイさん
観察の対象が4つ挙がっています。表情、発言の量、体調、悩んでいる様子。そして声をかけるのは、チームの前ではなく、ひとりになった一瞬です。
学生が「なんだろう、うまくいってなくて」と言うと、ルイさんは「そうなんだ、どうしたいのかな?」と返します。英語の悩みや、チームメンバーへの悩みを、ゆっくり聞きます。
学生にもよりますけど、ちゃんと付き合わなきゃなっていうときは、30分以上話を聞きますかね。 ルイさん
最初はゆっくりでいいから考えてみようか、って言います。理想的にはどうしたい?って聞きます。 ルイさん
ルイさんの問いは、「どうした?」「どうしたいのかな?」「理想的にはどうしたい?」と進みます。起きたことを聞き、本人の望みを聞き、理想を聞く。この並びには、スタッフからの解決策が出てきません。まず本人に考えてもらう聞き方だ、と私たちは読みます。
決まりはオリエンテーションで
夜の外出で守る決まりを聞くと、ルイさんの答えは1つでした。
一人で行動しないこと。基本的には、独断で行動させないようにしているだけです。 ルイさん
カンボジアで過ごすにあたって、きちんと安全に過ごしてほしいので、必ずこれは守りましょう、と伝えています。オリエンテーションで一通りいくつか話すので、それを守ってもらっています。 ルイさん
自由時間の過ごし方は「みんなそれぞれ」だとルイさんは言います。そのうえで、独断で動かないことをオリエンテーションで伝えています。夜の移動はトゥクトゥクで、4人で大きな車両に乗って開放的な雰囲気を楽しむ学生の様子も見られた、とルイさんは話しています。
日差しの対策を、事前指導に入れる
プノンペンで暮らすうえで気をつけていることを聞くと、ルイさんは「治安ではなくて、太陽の紫外線」と答えました。日焼け止めを塗ること、サングラスをかけること、アームカバーをつけることが、ルイさんの定番です。
世界保健機関(WHO)は、紫外線の強さを UV インデックスで示し、段階ごとの対策を挙げています。3〜7では昼の時間帯に日かげを探し、シャツ・日焼け止め・帽子で守る。8以上では昼の時間帯の外出を避け、シャツ・日焼け止め・帽子を「必須」としています。守るときは服、帽子、サングラス、日かげ、日焼け止めのすべてを使うように、とも書いています(WHO、2022年)。
事前指導では、渡航先の UV インデックスを天気予報で学生自身に調べさせ、持ち物を決めさせると、自分ごとになります。ルイさんの「体が資本」という話と合わせて伝えると、日差しの対策が体調管理の一部として伝わります。
学内で使える:声かけと体調確認の型
ここからは、ルイさんの話をもとに私たちが整理したものです。キミタビの規程そのものではなく、引率や事前指導で使うための例です。
| 場面 | 見ること・聞くこと | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 毎日の体調確認 | 「1から10で、いくつ?」と数字で聞く。前日との差を見る | 何点以下で、誰に知らせるか |
| 気になる学生 | 表情が暗い/意見が出ていない/体調が悪い/悩んでいそう | 声をかける人(引率教員か現地スタッフか) |
| 声をかける時機 | チームの前ではなく、ひとりになった一瞬 | 長く話すときの場所と時間(30分以上になることもある) |
| 話の進め方 | 「どうした?」→「どうしたいのかな?」→「理想的にはどうしたい?」 | まず本人の望みを聞く |
| 限界のサイン | 顔色、強い吐き気、本人の「限界」という言葉 | 部屋で休ませる。本人からあとで状況を連絡させる。連絡が来ないときに誰が確かめるか |
| 夜・自由時間 | 一人で行動しない | オリエンテーションで理由と一緒に伝える |
| 日差し | 日焼け止め・サングラス・アームカバー(+帽子・日かげ) | 出発前に UV インデックスを調べさせる |
事前指導で学生に練習させるなら、次の2つが短くて使えます。
- 自分の体調の「数字」の意味を、3段階くらいで書いておく(8〜10・5〜7・1〜4 など)
- 落ち込んだ日に自分に聞く3つの問い(どうした?/どうしたいのかな?/理想的にはどうしたい?)を、振り返りのノートの最初のページに書いておく
出発前に学内で決めておく例
数字で聞くなら、その数字を受けて誰が何をするかを先に決めておく必要があります。決めないまま始めると、「4です」と聞いた人が一人で抱えることになります。次は、学内で話し合うときのたたき台です。点の境目は例であり、研修の内容や同行する教員の人数に合わせて変えてください。
| 学生の答え | 聞いた人がすること(例) | 学内で決めておくこと |
|---|---|---|
| 前日より2点以上下がった | その日のうちに、ひとりのときに理由を聞く | 記録をどこに残すか(共有のノートか、振り返りの欄か) |
| 5〜7が2日続いた | 引率教員と現地スタッフで様子を共有し、活動の量を相談する | 教員とスタッフの、その日の連絡の時刻 |
| 4以下、または「限界」 | 部屋で休ませ、本人から状況の連絡をもらう。受診が要るかを現地スタッフと判断する | 受診を決める人、保険会社への連絡を持つ人 |
| 休ませた学生から連絡が来ない | 決めた人が部屋まで確かめに行く | 何分たったら確かめに行くか |
| 保護者への連絡が要る状態 | 学内の担当に報告し、担当から連絡する | 保護者へ連絡する基準と、連絡する人 |
この表のうち、右の列は出発前の打ち合わせで埋められます。現地で迷う時間を減らすのは、たいていこの列です。
キミタビでは、現地駐在スタッフが滞在中24時間対応し、体調と活動の振り返りを毎日記録しています。体制の全体は安全と体制にまとめています。2026年夏の4回で、救急搬送・警察対応を要する事案はありませんでした。これは結果の記録であり、約束ではありません。
忘れられない場面として挙がったこと
「忘れられない場面」を聞いた回で、ルイさんが最初に挙げたのは、プノンペンのアンドン村の道ばたでした。子どもたちが後ろから駆け寄ってきて、抱きつき、「ありがとう」「こんにちは」と言ってくれた。
私を覚えてくれていることと、キミタビの学生さんたちがやってくれているプロジェクトを覚えてくれていることの嬉しさがありました。 ルイさん
修了式の場面も挙がりました。MVPを取ったある学生が、自分のMVPよりも、チームのMVPが取れたときに涙したそうです。
みんながそれぞれ本当に一生懸命やっていて、自分は助けてもらってばかりだけど、みんなのおかげで、みたいなことを言っていました。 ルイさん
ルイさんは、この場面で伝えたいことを「チームの絆」と答えています。
体調の確認や声かけは、こうした場面の裏側にある、目立たない仕事です。引率や事前指導を考えるとき、私たちは、毎日の「いくつ?」を安全の手続きとしてだけでなく、学生が最後までチームの活動に加わるための支えとしても見ています。
