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学生の自信は、研修のどこで生まれるのか。自己効力感の4つの情報源で読む、ある参加者の1年

カンボジアのキミタビに参加し、翌年は運営スタッフとして戻った大学3年のセリーナさん。5回の取材で本人が語った場面を、バンデューラの自己効力感の4つの情報源(やりとげた経験・見る経験・言葉・気持ちの状態)に沿って読み直し、事前・現地・事後に教員が学生へ投げかけられる問いの表にまとめました。

 文:株式会社IMPACT ASIA

研修の終わりに、参加者どうしでMVPを選ぶ投票がありました。選ばれた学生に、あとでそのときの気持ちを聞くと、こんな答えが返ってきました。

「自分自身もやっぱりものすごく頑張ってきたので、絶対私がMVPじゃないかって、自分でも自分に投票したぐらいだったので」

笑い話のようですが、ここには研修で学生の自信がどう生まれるかの手がかりがあります。自分では手応えがあった。そこに、仲間の票という外からの裏づけが重なった。本人の言葉では「自分は認められてるって、その明らかな証拠がある」状態です。

話してくれたのは、大学3年のセリーナさんです。2025年の夏にキミタビの参加者としてカンボジアへ行き、2026年の夏は運営スタッフとしてもう一度カンボジアへ行きました。キミタビの取材ページで5回に分けて話を聞くと、参加を決めた日から、現地、帰国後、翌年の再訪まで、「自信」が出てくる場面がいくつもありました。

以下、その場面を、心理学者アルバート・バンデューラの自己効力感の枠組みに沿って4つに分けて読みます。先に断っておくと、これは一人の学生の自己報告であり、研修の効果を測ったものではありません。ただ、学生が自分の言葉で語った経験を4つの情報源に分けてみると、事前・現地・事後のどこで教員が何を聞けるかが見えやすくなります。

自己効力感の4つの情報源

バンデューラは1977年の論文で、「自分にはこれができる」という見込み(自己効力感)がどこから来るのかを整理しました。要旨によれば、その情報源は4つです。

  1. 自分でやりとげた経験(performance accomplishments)
  2. 人がやるのを見る経験(vicarious experience)
  3. 言葉による説得(verbal persuasion)
  4. 生理的な状態(physiological states)

そして要旨は、経験にもとづく情報源が頼りになるほど、自己効力感の変化も大きい、と述べています。

以下、セリーナさんの話をこの4つに分けて読みます。どの場面をどの情報源に当てはめるかは、本人ではなく私たちの読み方です。

参加を決めたのは「見る経験」だった

セリーナさんがキミタビを知ったのは大学で、決めたのは2025年夏の応募締め切りが近いころの相談会でした。そこで流れた短い動画が決め手になったと言います。

「最初はみんな不安そうな顔をしているのに、カンボジアの雰囲気とかが映されて、最後にそのみんなの顔つきが変わったのを見て、自分もこんなふうになりたいと思いました」

自分と同じような学生が、不安な顔から別の顔つきになっていく。これは2つめの「人がやるのを見る経験」にあたると私たちは見ています。本人が続けて口にしたのは「自分も誰かのために動いて、こんな笑顔な夏休みにしたい」という言葉でした。動画から受け取ったのは研修の中身の説明より、自分を重ねられる像だったと私たちは見ています。

家族は最初、アメリカやオーストラリアなど欧米の国を勧めたそうです。セリーナさんは自分の気持ちを話し、その動画を親にも見せました。返ってきたのは「これは絶対成長できるね」という言葉でした。

学生の募集の面から見ると、ここには一つの示唆があります。学生が家族に見せたのは、プログラムの概要ではなく、自分の心を動かした映像そのものでした。本人も後輩に向けて「もし家族が本当に不安なら、相談会の資料を見せるとか、相談会に参加してもらうとか、やっぱり自分が主体的に動くことが大事」と話しています。学内の広報で、学生が家族にそのまま見せられる材料を用意しておくことは、検討に値すると私たちは考えています(学内広報の年間の組み方は 海外研修の参加者が集まらないときに にまとめました)。

不安が無かったわけではありません。いちばん大きかったのは治安で、キミタビに参加したことのある友達に話を聞き、現地に住むスタッフに相談会で質問して、「完璧に不安がなくなるわけではないけど、ちょっとワクワクに変わったかもしれない」と言います。4つめの「気持ちの状態」にあたる不安は、消えたのではなく、別の気持ちと並んでいた。私たちは本人の言い方をそう読みました。

自信と同時に生まれた「足りなさ」

セリーナさんの話には、自信がついた場面と同じくらい、自分の足りなさに気づいた場面が出てきます。

セリーナさんのチームがアンドン地区で行ったのは、子どもたちにいろいろな国の言葉で「ありがとう」を教え、それをサンキューカードに書いて実際に使ってもらうアクティビティでした。子どもたちは「来てくれてありがとう」「お菓子くれてありがとう」という意味でありがとうを伝えてくれた、と言います。

その中で、一人の女の子がセリーナさんに「grandfather の綴りを教えてほしい」と言いに来ました。書き上げたカードを見せに来たので読むと、亡くなったおじいちゃんへの手紙でした。女の子は「お姉ちゃんが持っててほしい」と言い、セリーナさんはそのカードをいまも持っています。

そのときの気持ちを、セリーナさんはこう話しました。

「すごく苦しいというか、こうやって伝えられる場面を作れてよかったなって思ったりだとか、この子のためにもっとできることがありそうだなっていう(中略)正直それを教えたら終わると思っていたけど、次につながるというか、終わりはないなって感じました」

発表の質疑でも、似たことが起きています。前の夜に英語の原稿を暗記して臨み、発表そのものの緊張は「そこまでではなかった」。けれど、現地の関係者から想像していなかった深い質問を受け、答えるのに詰まりました。

「もっと知らないといけないなって気づかされました」

そこから本人が引き出したのは、「完璧に答えようとせずに、自分が言いたいことを英語で伝えれば、話が通じるのかな」という学びでした。

この学生の場合、やりとげた経験の中に、手の届かなさの自覚も混ざっていました。私たちはこの2つが一緒に出てくることを、研修の大事な部分だと考えています。「できた」だけで終わる振り返りは、受け入れてくれた地域の人や子どもを、学生の成長の舞台にしてしまう危うさがあるからです(受け入れる側から見た研修の倫理は 途上国での海外研修の倫理 に書きました)。

自信の芯は「やりとげた経験」と、仲間の票

現地で迷いが自信に変わった場面を聞くと、セリーナさんは3つを挙げました。

「アクティビティが成功した時だったりとか、最後MVPをもらった時だとか、自信を持ってみんなの前で話せるようになった時です」

本人がいちばん印象に残っていると話したアクティビティは、手紙を託された、あの「ありがとう」の企画でした。自分たちで考えた企画が子どもに届いた。この場面が1つめの「やりとげた経験」にあたると私たちは見ています。

そこに、MVPの投票が重なります。仲間の票は言葉ではないので、4つのどれかにきれいには収まりません。あえて言えば、仲間からの承認です。セリーナさんは自分でも自分に投票するほど手応えを持っていて、票はその努力の裏づけとして届きました。本人の「人をまとめることが得意だと、もともと思ってたんですけど、リーダーとかMVPとかもらったことで、より自信がつきました」という言い方からは、もともとの手応えに、仲間の承認が重なったことが読み取れます。

帰国後:周りの言葉と、もう一度行くこと

帰国後、友達や家族から「セリーナすごい」と言われたそうです。現地の様子を見ていないのに、ストーリーやSNSを見るだけで伝わった、と。これも3つめの「言葉」です。

本人が帰国後の変化として挙げたのは、行動力、出会いを大切にするようになったこと、何事にも挑戦するようになったことでした。進路についても見え方が変わっています。客室乗務員を目指す気持ちは参加前から変わらないものの、「人のために何かをしたい」と気づいたことで、「そこに縛られる必要はない」と思えるようになった。いまは「一番悩んでいる時で決めきれない」とも話しています。

この気づきは、どこで生まれたのか。

「最終日の自己分析、他己分析ワークはもちろんなんですけど、帰ってからみんなと久しぶりに会って話した時とか、自分は2025年の夏に参加して2026年の夏にもカンボジアに行ったので、その1年の間の変化だったりだとか、毎回行くことでさらに再認識できたかなって思います」

一度の研修の中だけでなく、帰国後に仲間と話すこと、翌年に役割を変えてもう一度行くこと。そのたびに自分の変化が「再認識」される。事後の機会が、現地の経験をもう一度意味づけ直す場になっていることが、本人の言葉から読み取れます。

教員が使える問い:4つの情報源 × 事前・現地・事後

セリーナさんの話を手がかりに、4つの情報源ごとに、教員が学生に投げかけられる問いを表にしました。答えを評価するためではなく、学生が自分の経験を言葉にするための問いです。

情報源 この参加者の場面 事前に聞ける問い 現地で聞ける問い 事後に聞ける問い
やりとげた経験 自分たちで考えたアクティビティが子どもに届いた これまでに「自分でやりとげた」と思えることは何か 今日、自分の手でできたことを一つ挙げると何か できたことと、できなかったことを1つずつ挙げると何か
人がやるのを見る経験 他の参加者の顔つきが変わる動画を見て参加を決めた 「こうなりたい」と思った人や場面はあるか 仲間のどんな動きを見て、自分もやってみようと思ったか 次に参加する後輩に、どんな場面を見せたいか
言葉による説得 仲間の投票(承認)でMVPに。帰国後の「すごい」 家族や友人に、参加について何と言われたか 仲間に言われて残っている言葉は何か 周りの評価と、自分の手応えは一致していたか
気持ちの状態 治安への不安が「ちょっとワクワク」に変わった いちばん大きい不安は何か。誰に聞けば少し軽くなりそうか 今日の体と気持ちを一言で言うと何か 行く前の不安は、いまどう見えるか

最後の列の「できなかったこと」は、意図して入れています。セリーナさんの「終わりはない」や「もっと知らないといけない」のように、足りなさの自覚は、次の行動の起点になるからです。

事前・現地・事後の全体の組み立て方は 海外研修プログラムの設計:事前・現地・事後を「学習のサイクル」でつなぐ方法 に、効果の測り方は 海外研修の効果測定 にまとめています。

この事例から言えること、言えないこと

言えることは、限られています。一人の学生が、研修の前後と翌年の再訪を通じて、自分の自信の出どころをかなり具体的に語れたこと。その語りが、自己効力感の4つの情報源にほぼ対応する形で出てきたこと。そして、自信と同時に「足りなさ」の自覚が生まれていたことです。

言えないこともはっきりしています。この学生の自信が研修によってどれだけ変わったのかは、測っていません。MVPに選ばれた学生の話なので、選ばれなかった学生の経験は別の形をとるはずです。また、バンデューラの論文は自己効力感一般の理論であり、海外研修について検証したものではありません。ここでの当てはめは、学生の語りを整理するための私たちの読み方です。

それでも、学生が「自信がついた」と言うとき、それがどの経験から来たのかを一緒にほどいてみることには意味があると考えています。「楽しかった」「成長した」で終わる感想を、次の行動につながる言葉に変える手がかりになるからです。

セリーナさんは、迷っている後輩にこう伝えたいと言いました。

「気になったら気になるで終わりじゃなくて、自分から足を運んで話を聞きに行ったり見に行ったりだとか、気になるで終わらせないってこと」

翌年、セリーナさんは運営スタッフとしてカンボジアへ戻りました。

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