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代表インタビュー:会社を閉じた21歳と、授業が止まった2020年3月

2020年3月13日、代表の渡邉が経営していた学校に、翌週からの授業を禁じる命令が届きました。21歳で閉じた会社と、その日の判断を聞き、危機の日に一度に来る問いを学内で先に決める表と、学生が失敗しても次の機会がある研修の点検の問いにまとめました。

 文:株式会社IMPACT ASIA

2020年3月13日、金曜日。渡邉が当時経営していた、留学生を受け入れる学校に、政府から命令が届きました。翌週から、授業をしてはいけない。

あれ2020年の3月13日の金曜日だったと思うんですけど、(中略)その翌週からもう授業をやってはいけないという命令が出た瞬間っていうのは、最初はとは言っても大丈夫でしょうっていう、何とかお願いすればできるんじゃないかと。

最初に頭に浮かんだのは「とは言っても大丈夫でしょう」だった、と渡邉は振り返ります。今回の取材のテーマは「失敗と、そこから学んだこと」。話は学生時代に閉じた会社から始まり、この日に至りました。ここでは、この日の話から書きます。

授業停止の命令が出た日、一度に来た問い

「何とかお願いすればできるんじゃないか」。けれど、命令が本当に実行されるなら、考えなければいけないことが一度に押し寄せます。

もし本当にこれが実行されるということであれば、とんでもないことだし、もちろん生徒さん自体にどう説明して、当然留学途中の人たちもたくさんいたので、そういった人たちになんて説明して、お金の話もありますし、そもそも帰国できるのかとか、その辺がもうすべてが初めてのことだったので。状況としてはパニックみたいな状況だけども、とにかく情報を収集して正しい意思決定をするしかない、っていうふうに割り切った瞬間はありました。

生徒にどう説明するか。留学の途中の人をどうするか。お金はどうするか。そもそも帰国できるのか。渡邉が挙げた問いは四つで、そのどれにも前例がありませんでした。

翌週に何をどの順で決めたのかは、今回は聞けていません。

学内で先に決めておけること

渡邉の挙げた問いは、海外研修に学生を送り出す学校にとっても他人事ではありません。研修中に現地で同じことが起きれば、同じ問いが学内に一度に届きます。その日に答えを探すより、出発前に決めておけることが多くあります。

その日に来る問い 出発前に学内で決めておくこと キミタビの現状
本当に止めるのか、続けられるのか 現地の命令や危険レベルが変わったとき、研修を続けるか止めるかの基準と、決める人 誰が中止・変更を決めるかを、大学と事前に文書で合わせることを勧めている。運営者側の一律の基準は、この記事には載せていない
学生本人にどう説明するか 学生に連絡する担当者と手段。現地の運営者と学校で、伝える内容をそろえる手順 連絡は現地駐在スタッフが24時間対応し、毎日安否を確認している。伝える内容をそろえる手順は、大学の窓口と事前に決める
研修の途中にいる学生をどうするか 途中で切り上げる場合の判断と、単位・評価の扱い 単位・評価の扱いは大学が決める。運営者として決めているものは無い
お金をどうするか 中止・短縮のときの費用の扱い(運営者の規定と、学校・学生の負担の分け方)。保険でどこまで出るか 中止・短縮のときの費用の規定は、この記事には載せていない。海外旅行保険への加入は参加の条件
そもそも帰国できるのか 帰国の便が取れない場合の滞在先と費用、保護者への連絡の順番 帰国便が取れないときの滞在先の取り決めは、大学ごとに決める。在カンボジア日本国大使館との連携体制はある
情報をどこから取るのか 外務省・在外公館・現地の運営者など、確かめる先の一覧と、確かめる担当者 外務省の危険情報の読み方(国ではなく地域で読む)を、安全管理の記事にまとめている

たとえば帰国の便が取れないときの滞在先が先に決まっていれば、その日は運営者に確認の連絡を一本入れれば済みます。右の列は、まだ全部の問いに答え切れてはいません。緊急時の連絡の順番や、文部科学省のガイドラインに沿った学内の決めごとは「海外研修の安全管理・危機管理」のチェックリストにまとめています。

21歳で始めた会社:こだわるほど、続けられなくなる

渡邉が最初の失敗として挙げたのは、学生時代の起業でした。21歳、大学3年のときに3人で始め、2年ほど続けて、会社を閉じた。本人は「人生の中で最も落ち込んだ瞬間」だったと言います。

始めたのは、ウェディングプロデュース。結婚式をつくる仕事です。

オリジナルで結婚式を作れば作るほど利益率が下がっていく。それを価格に反映できないというジレンマに陥った結果、最終的には僕らが作っている結婚式というのは、極力利益を確保していくということになっていくと、他社さんが作っている結婚式とほぼ変わらないものが出来上がっていたと。

1年ほどで「自分たちのビジネスプランだと難しいぞ」と分かってきた。3人のうちの一人が別の方向に進みたいと言ったのは、ちょうど大学を卒業する時期でした。お金はない。ビジネスモデルが崩れ出したときに何をしたらいいのかも分からない。周りは就職していく。渡邉はそれを「一言で言うと将来本当に大丈夫かな」という不安だったとまとめています。

学生の企画でも、同じずれが起きる

ここからは、渡邉の話を受けた私たちの見立てです。

「やりたいこと」と「続けられる仕組み」のずれは、起業に限らず、学生が地域の課題に取り組む企画でもよく起きます。理想を大きく描くほど、限られた時間や英語の力では実行できない。実行できる形に削ると、どこにでもある企画に近づく。

キミタビの13日間では、7日目にカンボジアの学生と英語で企画を決めて発表し、翌日の審査に通らなければ、その日の夕方にもう一度発表します。満足度の平均(2026年夏、10点法)は Day1 8.6、Day7 7.6、Day10 9.0 で、公開している3日のうちでは7日目が最も低くなりました。

渡邉が21歳で抱えた不安のうち、「何をしたらいいのか分からない」は、研修の設計で手当てできる部分だと私たちは考えています。お金や周りの進み方はどうにもできなくても、つまずいた学生に次の一手の手がかりを渡すことはできます。

落ち込んだあとに、何を学び直したか

うまくいかなかったと分かったとき、渡邉は1週間ほどひどく落ち込みました。そのあと考えたのは、ここで諦めたら「ただただ起業失敗した人になる」ということでした。もう一度学び直し、いつか立ち上げ直した会社を成功させれば、「あの時の経験があったからこそ」と言えるようになる。渡邉は、過去は「もう一回チャレンジすることによって上書きできる」と表現しています。

ただ、そこまで考えたのがその時だったかどうかは「覚えてない」と本人は言います。覚えているのは「この経験を糧に前に進もうと決めた瞬間はあった」ことです。

次に入ったのは、投資ファンドでした。

そこで「経営のことも本当に一から学ばせてもらった」と渡邉は言います。能力の高い人たちが「こんな夜中まで切磋琢磨して働いているんだ」と知った、とも。

(前略)素晴らしい環境と基準の中で自分の能力を高めることができたと。その結果、最終的にフィリピンでも創業することができたかなというふうに思っています。

会社概要にあるとおり、渡邉はその後、2012年にフィリピンで語学学校を共同創業しています。

21歳で「何をしたらいいのか分からない」と言っていた人が、2020年3月には「情報を収集して正しい意思決定をするしかない」と割り切っている。その間にあったものの一つが、この学び直しだったと私たちは読んでいます。研修の側で用意できるのは、分からなかったことを学べる場のほうです。

研修の中で、打席に立つ数を増やす

取材の最後に、いちばん伝えたいことを聞くと、渡邉はよく使うという野球のたとえを出しました。大谷翔平選手でも、10回打席に立ってヒットは3回ほど。7回は失敗している。だから「失敗を恐れるのではなく、打席に立つ数をいかに増やして、一つでも多くの成功を手に入れる」ことだ、と。学生に向けては「実は失敗しろってこと」と言い、すぐに「もちろん失敗を狙っていくわけじゃない」と添えました。この部分は、学生向けの記事でくわしく書いています。

学生に「打席に立て」と言うのは簡単です。けれど、研修の中で一度の失敗が評価に直結するなら、学生は無難な選択に傾きやすいと、私たちは現場で感じています。打席の数は、学生の意志と同じくらい、研修の組み方で決まります。

研修を企画する先生が設計を点検するための問いを、時期ごとにまとめました。私たち自身も、すべてに答え切れているわけではありません。

時期 点検の問い
出発前 研修の途中で「うまくいかない日」が来ることを、学生に先に伝えているか
研修の前半 小さく試して、すぐ結果が返ってくる場面(現地の人に話を聞く、短く発表する)が何度あるか
研修の中盤 企画が通らなかったとき、もう一度出し直せる機会があるか。出し直すまでの時間は足りるか
研修の中盤 つまずいた学生に、次に何をすればよいかの手がかり(声かけ、記録への返事)が届く仕組みがあるか
研修の終わり うまくいかなかった場面を減点だけで終わらせず、何を学んだかを言葉にする時間があるか
帰国後 研修の中の失敗を、次の挑戦につなげる場(報告、次の挑戦の相談)があるか

キミタビの13日間では、審査に通らなかった班がその日の夕方に出し直す形をとっています。出し直しのあとの Day10 で、満足度の平均は Day1 を上回りました。これは順序の記録で、出し直しの効果を測ったものではありません。谷の時期の具体的な関わり方は「海外研修のカルチャーショックと『谷』」に、事前・現地・事後をつなぐ設計は「海外研修プログラムの設計」に書いています。

21歳の渡邉が挙げた不安の一つは、つまずいたときに何をしたらいいのか分からないことでした。研修の中で学生がつまずいたとき、その手がかりをどこに置いておくか。学生に「失敗を恐れずに」と言う前に、運営する側が答えておきたい問いです。

前回までのインタビューでは、キミタビがなぜカンボジアで生まれたのかと、これからの10年を聞いています。

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