Insights — ストーリー

修了式の涙を一時の興奮で終わらせない:キミタビのこれからの10年

13日間の最終日、修了式ではほとんどの参加者が泣きます。代表の渡邉は「それが一時の興奮で終わってはいけない」と言います。帰国後の仲間づくり、受け入れ地域への対価、東南アジアへの広がり。これからの10年に向けて考えていることと、まだできていないことを聞きました。

 文:株式会社IMPACT ASIA

13日間の研修の11日目。午後に一人ひとりが「キミタビ宣言」を書き、夕方、プノンペンのカフェで修了式が始まります。話し始めると、ほとんどの参加者が泣きます。チームの仲間も、聞いている側も。

運営する側にとって、いちばん報われる時間のはずです。けれど代表の渡邉は、その場面を思い出しながら、少し違うことを話し始めました。

最終日を見ていていつも思うんですけど、(中略)それが一時の興奮で終わってはいけない。

前回のインタビュー「キミタビは、なぜカンボジアで生まれたのか」では、始まりを聞きました。今回聞いたのは、その先です。これからの10年で、何をつくろうとしているのか。

修了式の涙は、ゴールではない

最近のプログラムで印象に残った場面を尋ねると、渡邉はまず修了式を挙げました。

一つはやはり最終日の修了式ですね。ほぼみんな号泣して泣いているっていうところ。

研修の満足度を測れば、最終日の数字は高く出ます。学内の報告書にもそう書けます。それでも渡邉が気にしているのは、その涙が、帰国して何週間か経ったあとに何を残しているかです。

学生さんたちも今回キミタビの経験を通じて、社会課題ということに対して、少しでも取り組み続ける人間になっていく。そのためには、その興奮で終わらず、それが本当に成長につなげられるのかどうか。そういう意味では、実はキミタビというのはきっかけでしかないかなと。

研修を提供する側が「きっかけでしかない」と言うのは、少し勇気がいります。13日間でできることには限りがある。だから、13日間のあとを設計しなければいけない。

「谷がなければ、最後の成長もない」:記録で見えたこと

もう一つ、渡邉が挙げたのは、毎日の記録の仕組み「マイタビ」でした。参加者は毎晩、その日の満足度と振り返りを書きます。それが集まるようになって、運営の見え方が変わったと言います。

生徒さんの感情の変化が、完全にわかるようになってきた。いま生徒がどういう状況で、最終的にどうやって壁を乗り越えていくのか。その動きみたいなのが完全にわかるようになってきた。

7日目は、地域で取り組む企画を自分たちで決める日です。

だいたい7日目に、なかなかその企画が通らないということで、いわゆる揺らぎが起きてくるんですけど、その日の満足度って必ず下がるんですね。それを乗り越えていくことで、自分たち自身が一つ課題に対してやり切った感覚とかっていうのが、中に湧いてくる。要は、谷がなければ、実は最後成長もないっていうことが分かった。

谷は失敗ではなく、成長の手前にある。それが記録で見えるようになって、「運営側からすると、狙ったようなことができるようになってきた」と渡邉は言います。日ごとの満足度の数字と、谷の時期の関わり方は「海外研修のカルチャーショックと『谷』」に書いています。

研修の中の谷は、記録とスタッフの関わりで越えられるようになってきた。では、帰国したあとはどうか。

宣言を一人で抱えさせない:帰国後の仲間づくり

渡邉の答えは、最終日に書いた宣言を、一人で抱えさせないことでした。

帰国後も、自分が決めたキミタビ宣言をきちんと実行していける。そういう仲間たちと一緒に。そういった環境をしっかり作っていきたいなというふうに思ってますし、今そのための準備っていうのも進めている状況ですね。

準備は、まだ始まったばかりです。

今の段階だと、キミタビ期間中にも積極的に今後もアクションを取っていきたいと言っている学生、十数名ほどに声をかけて、そのコアメンバーたちと、まずはベースのコミュニティの形を作っていこうというふうにスタートしています。そこである程度形が出来上がってきたら、それをキミタビの卒業生たちに広げていこう、という形で今進めている状況ですね。

最初の集まりはいつ、どこで開くのか。答えは「まだこれからです」「まだわからないんです」。帰国後の場は、いまは最初の声かけの段階です。

研究も、帰国後に目を向ける理由を示しています。米国ジョージタウン大学などによる大規模な調査(Georgetown Consortium Project)は、学生が海外で最もよく学ぶのは、メンタリングや振り返りのように「先回りして用意された学びの関わり」があるときだと結論づけました(Vande Berg ほか、2009年)。海外に行けば自然に学べる、わけではないということです。また Horn と Fry(2013年)は、米国の大学の卒業生2,250人を分析し、海外に滞在した期間が長いほど、その後に開発のボランティアへ参加する傾向があり、途上国での留学や国際サービスラーニングに参加した人も参加が高かったと報告しています。

13日間は短い。滞在の長さで届かない分を、帰国後の関わりで補えるのか。それは研究の外側にある問いで、私たちがこれから確かめることです。

途上国を「学びのフィールド」として使わせてもらう

インタビューの最後に、いちばん伝えたいことを聞きました。渡邉が話したのは、学生の成長ではなく、研修を受け入れてくれている地域のことでした。

キミタビが目指すものというのは、単純に旅行のようなものではない。自分自身が何かを見つけていくっていうことだと思うんですね。だから、見つけた先にしっかりと社会の変化がある。人の覚醒もそうだし、自分が関わった地域、人っていうものに、きちんと変化があるということかなと。(中略)それが本当の意味で実現できなければ、IMPACT ASIA がキミタビとしてやる意味はないんじゃないかなと。ただ途上国で学生が体験しただけになってしまうなと。

なぜ途上国なのか、という問いへの答えも、ここにありました。

(前略)問いが立つ場所。それは日本のように、ありとあらゆるものが整理されて整った場所ではなくて、これからいろんなものが出来上がっていく、その前段階で、いろんな課題が散在しているような場所。そういう途上国こそ学びのフィールドであると。そのフィールドを使わせていただいている。そこに対してきちんと対価を払っていく。そうすることによって、非常にサステナブルな形でお金が循環していくのではないかと。

「使わせていただいている」という言い方に、渡邉の立ち位置が出ています。地域を助ける側として入るのではない。学ぶ場所を借りている側として、対価を返す。ボランティアのような一方的な支援ではなく、「双方向で価値を提供するというモデルに挑戦をしようとしている」と渡邉は言います。

この考えは、研究の世界でも議論されてきました。Hartman らは2014年、大学と地域が関わる国際ボランティアの倫理基準として「Fair Trade Learning(フェアトレード・ラーニング)」を示しています。受け入れる地域と参加する学生の双方にとって、良い面を大きくし、悪い影響を小さくするための運営の基準です。学生の学びだけを成果として数えない、という点で、渡邉の話と重なります。

では、IMPACT ASIA はいま、どこまでできているのか。

いまできていること まだできていないこと
2024年から、現地の団体 Children Bridge Organization と協働している 地域に対価を返す形を、まだ外に説明できる言葉や仕組みにできていない
カンボジア側の目標を「支援地域の中学卒業率」に置いた その数字の測り方は、これから現地の団体とつくる
同じ地区に季節ごとに通い、話を聞くところから始め直している 訪問が地域の負担になっていないかは、地区の人と現地の団体に聞き続けている。答えはまだ出ていない

右の列は、そのまま次の10年の宿題です。受け入れる側から研修をどう見直すかは「途上国での海外研修の倫理」にも書いています。

10年後に見たい景色

最後に、10年後の理想の姿を聞きました。「とても大きな質問かなと思うんですけど」と前置きして、渡邉は日本とカンボジアの両方から答えました。

自分たちが関わっている学生たちが、このきっかけ、世界の一歩目って僕は言ってますけど、それによって世界に目が開き、そしてキミタビに参加する前までは考えられなかったようなキャリアを歩んでいく姿っていうのを見れる。それが日本人の学生かなと。

カンボジア人に関しては、やっぱり僕らが今支援している地域のスラムの子どもたちとか、そういった子たちが、本当に自分の夢を持って、その夢を実現しようとしている、実現できる環境ができている。要はお互いにとって Win-Win な環境がそこにできているっていうことができると、非常に嬉しいなと思っています。

そしてそれが、カンボジアだけでなく、ベトナムやタイ、東南アジアの各地にプログラムとして広がっている状態。2026年には、ベトナムとタイでも回が始まりました。問われるのは、どの国でも地域の側に変化が残る形で広げられるかです。

「世界の一歩目」とは何か。渡邉は、毎回の研修で見ている流れとして、こう話しました。

単に旅行とは違う。要は自分たちで問いを立てて、その問いに対して解を足していく。その中で世界の面白さを知っていく。この一連の流れ、それによってもっともっと世界を知ってみたいっていうふうに思うようになる。ここがとても重要な部分だなというふうに思います。

教育機関の方へ:研修を「きっかけ」で終わらせないための問い

大学や高校で海外研修を企画する方に向けて、今回の話を、学内で使える問いにまとめました。私たち自身も、まだ全部には答え切れていません。

時期 問い
研修中 気持ちが沈む時期(谷)を前提に、毎日の記録と声かけを用意しているか
最終日 学生が「帰国後にすること」を、自分の言葉で具体的に書く時間があるか
帰国後1か月 宣言を一人で抱えさせず、話せる仲間や場があるか
帰国後半年 宣言したことの進みを、誰かが聞きに行くか。進まなかった理由も聞くか
地域の側 受け入れてくれた地域に、何を返したかを説明できるか。地域の側にも聞いたか
次の年 帰国した学生が、次の参加者の事前学習や地域との関係づくりに関われるか

研修の設計全体は「海外研修プログラムの設計:事前・現地・事後を『学習のサイクル』でつなぐ方法」に、効果の測り方は「海外研修の効果測定」にまとめています。帰国後の場が形になったら、ここで続きをお伝えします。

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